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睡眠時無呼吸症候群と高血圧

睡眠時無呼吸症候群と高血圧

 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(Obstructive Sleep Apnea Syndrome: OSA)は睡眠障害の中でも最も循環器疾患の発症リスクを増大させる病態であり、これまでの疫学研究においてもOSAが冠動脈疾患、脳卒中、心房細動、心不全、大動脈解離、不整脈ならびに突然死などのリスクとなることが明確に示されています。

7年間の観察による心血管疾患の発症率
(Peker Y, et al. Am J Respir Crit Care Med 2002より引用)
7年間の観察による心血管疾患の発症率

 OSA患者の50%~60%には高血圧が合併し、高血圧患者の30%~40%にはOSAが合併しますが、両者は単に合併しているだけではなく、OSA自体が高血圧の原因となり、OSAを有する人では高血圧の発症リスクが健常人の1.4倍~2.9倍に増加します。

OSAが重症なほど高血圧発症リスクが高い
(Peppard PE, et al. NEJM 2000より引用)
OSAが重症なほど高血圧発症リスクが高い

 また、2,500人以上のデータを分析した結果では、AHIが増加するに伴い高血圧のリスクが直線的に増加することも明らかにされています。本邦の高血圧患者を対象に行われた研究では、約10%の人が中等症以上のOSAを合併していることが明らかにされており、またAHIが10増加するごとに高血圧患者の頻度が1.1倍になることなどから、OSAは二次性高血圧症の代表的な原因疾患の一つに挙げられています。

OSAによる高血圧は、夜間の間欠的低酸素血症や脳の覚醒反応による交感神経活動の亢進により引き起こされる神経因性高血圧であり、血圧変動性の増大を特徴としています。

OSA患者における筋交感神経活性の亢進
(麻野井英次:Cardiac Practice 2009より引用)
OSA患者における筋交感神経活性の亢進

 これまでに行われた、地域住民を対象とした前向き研究の結果から、OSAによる高血圧では、年齢や体格指数(BMI)と独立して、無呼吸低呼吸指数(AHI)の増加が、将来の高血圧発症リスクとなることが示されています。

OSA重症度別の高血圧のリスク
(Marin JM, et al. JAMA 2012より引用)
OSA重症度別の高血圧のリスク

 更には、AHIの値と24時間血圧レベルには、BMIやそのほかの要因とは独立した閾値のない直線相関関係がみられることも示されています。なお、OSAの高血圧リスクとしての影響は、若年者でより大きく、高齢者ではその影響は減少します。またOSAは50歳未満の高血圧患者の血圧のコントロール不良に関しても独立した危険因子となります。

OSA重症度と血圧変動
(Kishimoto A, et al. Clin Exp Hypertens 2007より引用)
OSA重症度と血圧変動

 OSAによる高血圧の最も重要な特徴は、仮面高血圧に代表される血圧日内変動の異常を伴うことが多い点と、治療抵抗性高血圧の原因となることです。OSAを合併した高血圧患者では、夜間の血圧変動性が増大しており、夜間高血圧や早朝高血圧を示すことも多く認められます。

OSA患者の24時間血圧変動
(Davies CWH, et al. Thorax 2000より引用)
OSA患者の24時間血圧変動

 また、OSAの夜間無呼吸発作時には、無呼吸が解除される時期に一致して一過性の著明な血圧上昇(血圧サージ)が引き起こされます。この血圧サージは、夜間の最低動脈血酸素濃度が最も強い規定因子であり、夜間睡眠中の高血圧や血圧変動性の増大とともに、OSAで認められる夜間~明け方に発症する心血管イベントの誘因となると考えられています。

無呼吸発作時の血圧サージ
(Kario K. Progress in Cardiovascular Diseaseより引用)
無呼吸発作時の血圧サージ

 OSAは治療抵抗性高血圧の原因としても最も頻度が高く、治療抵抗性高血圧の71%~83%にOSAが合併していることも知られています。特に、降圧薬の就寝前投与などを行っても早朝高血圧が改善しない症例や、就寝前血圧と早朝血圧の差が大きい症例では、OSAが関与していることが多いと考えられています。

治療抵抗性高血圧におけるOSA合併の頻度治療抵抗性高血圧におけるOSA合併の頻度

 OSAを合併した治療抵抗性高血圧に対して腎デナベーション治療(カテーテルによる腎臓の交感神経焼灼治療)を行った結果において、著明な血圧低下とともに良好な血圧コントロールが得られることが示されたことから、OSAを伴った治療抵抗性高血圧の背景には交感神経活性の亢進があることが明らかにされています。

OSA患者に対する腎交感神経アブレーションによる血圧低下
(Witkowski A, et al. Hypertension 2011より引用)
OSA患者に対する腎交感神経アブレーションによる血圧低下

 OSAを合併する高血圧はハイリスクであり、夜間血圧を含めたより厳格な降圧療法を行うことが必要となります。OSAを合併した高血圧の治療においても、通常の本態性高血圧と同様に生活習慣修正が重要ですが、中でもOSAの改善に直結する項目である減量、禁煙、アルコール制限は特に重要な修正項目となります。中等症~重症のOSAを合併している症例では、降圧薬に抵抗性を示すことも多いため、生活習慣修正の指導と共にCPAP療法を行います。

収縮期血圧に対するCPAPの効果
(Logan AG, et al. Eur Respir J 2003より引用)
収縮期血圧に対するCPAPの効果

 CPAP療法により、多くの症例では降圧効果が得られ、夜間の血圧サージは低下し、心血管予後も改善しますが、CPAPの効果には個人差があり、また高血圧の程度が重症なほどCPAPの効果も大きくなりやすい傾向があります。

CPAPによりOSAと低酸素状態が改善し血圧サージが消失する
(Kario K. Hypertens Res 2009より引用)
CPAPによりOSAと低酸素状態が改善し血圧サージが消失する

当院に通院中のOSA患者の血圧推移当院に通院中のOSA患者の血圧推移

 ただしCPAP療法による明確な降圧効果を期待するにはコンプライアンスが良好であることが必要であり、一晩4時間以上の使用、AHIが50%以上減少、長期にわたる使用などの条件を満たすことが望まれ、なかでも、CPAPの使用時間と降圧の程度は有意な相関を認めることから、CPAPの使用時間は出来るだけ長時間を目指す必要があります。

CPAPは4時間以上の使用が望ましい
(Barbe F, et al. JAMA 2012より引用)
CPAPは4時間以上の使用が望ましい

 また、CPAPよりも効果は劣る可能性はありますが、口腔内装置使用によっても降圧効果が期待できます。

口腔内装置使用の降圧効果
(Iftikher IH, et al. J Clin Sleep Med 2013より引用)
口腔内装置使用の降圧効果

 AHIが20未満のOSAを合併した高血圧患者、CPAPやマウスピースによる治療が行えなかった高血圧患者、CPAPを使用しても降圧目標までの降圧が得られない高血圧患者などでは降圧薬を投与します。OSA合併高血圧に対する降圧薬の効果は、降圧薬の種類により大きな違いがあることが明らかにされており、OSAの程度や高血圧の程度を勘案しながら、夜間高血圧と低酸素サージ血圧をターゲットにした特異的な降圧療法が行える降圧薬を選択する必要があります。

OSAの睡眠中血圧サージに対するドキサゾシンの効果
(Kario K. Hypertens Res 2009より引用)
OSAの睡眠中血圧サージに対するドキサゾシンの効果

 また、降圧薬の中にはAHIを低下させる作用が報告されているものもあり、重症のOSA合併例では積極的に使用されています。なお、OSA合併高血圧の治療においては、24時間にわたる厳格な血圧管理が重要であり、夜間血圧は120/70mmHg未満を指標としてコントロールする必要があります。

OSAを合併した高血圧の治療方針
(Kario K, et al. Hypertens Res 2009より引用)
OSAを合併した高血圧の治療方針

 高血圧を合併していないOSA患者においては、CPAPによりOSAを治療することにより高血圧新規発症が抑制されることが示されています。

甲斐 達也

かい内科クリニック院長  甲斐 達也(かい たつや)

  • 日本内科学会認定総合内科専門医
  • 日本循環器学会認定循環器専門医
  • 日本高血圧学会認定高血圧専門医
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