仮面高血圧
1. 仮面高血圧とは
血圧は一日のなかで大きく変動します。この血圧の変動は日内変動と呼ばれています。通常の日内変動では血圧は夜になるにつれて下降し、睡眠中には日中よりも10%~20%程度低くなり、早朝からは活動の準備のために少しずつ上昇していきます。また血圧は日内変動以外にも様々な要因で変動します。そのため、医療機関で測定した血圧が正常であっても、早朝や夜間、昼間などの特定の時間、もしくは職場などの医療機関以外の特定の場所で高血圧を呈することがあります。このような血圧の状態を、「正常血圧の仮面をつけた高血圧」という意味で仮面高血圧と呼びます。仮面高血圧は見逃されやすいうえに、脳卒中や心筋梗塞などの脳心血管疾患の発症率が一般的な高血圧と同程度かもしくはそれ以上になるため危険な高血圧といえます。高血圧患者を対象とした研究の結果では、適切な治療を受けている高血圧患者に比べて仮面高血圧を呈している高血圧患者では脳卒中や心筋梗塞の発症率が3倍高くなることが報告されています。仮面高血圧は、高血圧を呈する時間帯別に早朝高血圧、夜間高血圧、昼間高血圧の3つのタイプに分けられています。仮面高血圧を見つけるには毎日朝と夜に家庭血圧を測定することが有用です。
2. 早朝高血圧
診察室血圧が140/90mmHg未満で、早朝に測定した家庭血圧の平均値が135/85mmHg以上を示す場合に早朝高血圧と診断されます。早朝高血圧には、夜間高血圧からそのまま高血圧が持続して早朝も高血圧を示す持続型タイプと、早朝になると急激に血圧が上昇するモーニングサージタイプの2つのタイプがあります。持続型タイプは、糖尿病、腎臓病、睡眠時無呼吸などを罹患している人に多くみられ、モーニングサージ型は高齢者や血糖値・コレステロールが高い人、アルコールを多飲する人に多くみられます。夜間から早朝にかけての時間は自律神経や血圧が1日のうちで最も大きく変動する時間帯のため、早朝の持続型高血圧やモーニングサージはいずれも一日の平均血圧値とは独立して脳心血管疾患や臓器障害のリスクとなります。実際に心筋梗塞や脳梗塞は早朝から午前中にかけて多発することが知られており、この現象には早朝高血圧が大きく関わっていると考えられています。
早朝高血圧は、診察室血圧が正常な人の10%~15%程度存在すると考えられています。また、降圧薬による治療を受けている高血圧患者でも約半数が早朝高血圧を呈していると報告されています。早朝高血圧を呈している人では、高血圧で投薬治療により診察室血圧は良好にコントロールされていても、午前中の服薬のために翌日の早朝には薬剤の効果が不十分となり高血圧を呈している症例も多くみられます。そのような場合には投薬内容の変更や投薬時間の変更などが必要になります。
3. 夜間高血圧
24時間血圧測定(ABPM)または家庭血圧計で測定した夜間血圧の平均が120/70mmHg以上の場合夜間高血圧と診断されます。最近では家庭血圧でもタイマー機能により就寝中の血圧が測定できる機種も発売されており、ABPMと同程度のリスク予測能を持つことも報告されています。夜間高血圧のうち夜間の高い血圧が早朝まで持続している場合には家庭血圧測定により早朝高血圧として検出されます。夜間血圧は昼間の血圧よりも変動幅が小さいため、その平均値の増加はより強く脳心血管疾患や認知機能低下のリスクと関連します。更には、早朝と就寝前の家庭血圧が正常でも夜間就寝中の血圧が高い人では脳心血管系疾患のリスクが高くなります。
4. 昼間高血圧
診察室血圧や家庭血圧が正常値でも、職場や家庭のストレスにさらされている昼間の血圧の平均値が135/85mmHg以上の場合に昼間高血圧と診断されます。精神的・身体的ストレスは血圧に影響を与えることが知られており、昼間高血圧の一つとして職場高血圧があります。検診などでの血圧は正常でも、ストレス状況下にある職場で測定した血圧が高くなる状態を指し、肥満の人や高血圧の家族歴のある人に多くみられる特徴があります。昼間高血圧は診察室血圧や家庭血圧では見逃されることが多く、その検出にはABPMや職場での血圧測定が必要になります。