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高血圧と認知症

高血圧と認知症

 本邦における認知症患者の割合は65歳以上の老年人口の15%を超えており、その数は年とともに雪だるま式に増えていきます。70歳以降では5歳年齢が増えるごとに認知症になる確率が2倍になり、80歳を超えると認知症の頻度は20%、85歳以上では40%となります。認知症の原因疾患としてはアルツハイマー病、脳血管障害、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、パーキンソン病、ビタミン欠乏、うつ病、甲状腺疾患など多彩にありますが、アルツハイマー病もしくは脳血管障害による認知症がその大半をしめています。

高血圧と認知症

 アルツハイマー病の発症には様々な要因が関与しており、避けることのできない遺伝的要因や加齢の他に、高血圧や糖尿病などの生活習慣病も発症を促進する重要な因子となっています。最近の報告では、特に中壮年期の生活習慣病はアルツハイマー病の発症に深く関与することが明らかになっています。2002年に米国で行われた研究では、679人のアルツハイマー患者のうち、61%の患者が3個以上の身体疾患を合併し、更に認知症が重症になるにつれ合併疾患数も増加したことが報告されています。また、初診のアルツハイマー病患者178人を対象に行った本邦での研究においても、アルツハイマー病患者では平均2.3個の内科疾患を合併し、そのうち高血圧が42%に見られたことが報告されています。脳は体重のわずか2.5%の重量しかないにも関わらず血液は全身の20%を必要とする臓器であるため、生活習慣病により動脈硬化が生じると認知症を発症しやすくなります。したがって、生活習慣病に介入して動脈硬化を抑制する事により、認知症の発症予防や進行抑制が期待できます。実際にフランスで行われた研究では、アルツハイマー病患者を100人ずつ、生活習慣病を、①全く管理しなかった群、②ある程度管理した群、③すべて管理した群の3群にわけて2年半経過を見たところ、すべての生活習慣病を管理した群では自立が可能な状態を維持できていましたが、全く管理しなかった群では自立した生活が難しい状態にまで進行しており、ある程度管理した群ではその中間程度の進行具合であった事が報告されています。また生活習慣病の治療薬においても、糖尿病の治療に用いられるピオグリタゾンや高コレステロール血症の治療に用いられるスタチンなど、実際に認知機能障害の進行防止や一時的な改善効果を期待できるものが少なからずあります。

生活習慣病を管理した時の認知症進展予防効果
(Deschaintre Y, et al. Neurology 2009より引用)
生活習慣病を管理した時の認知症進展予防効果

 様々な血管性危険因子の中でも高血圧は認知症の発症や進行に特に深く関与しており、中でも血管性認知症のリスクを高めるという報告は多くみられます。また、アルツハイマー病やレビー小体型認知症なども高血圧との有意な関連性が示されています。イタリアで行われた研究では、高血圧患者では認知症や脳機能障害のない時期においても、課題学習や処理速度、ならびに実行能力が有意に低下していることが報告されています。様々な研究をまとめて解析した結果では、中年期の高血圧が将来の認知症発症に関与することが明らかにされています。また、老年期の血圧は180mmHg以上の高血圧もしくは低血圧が認知機能に影響することも明らかにされています。高血圧が認知症を発症もしくは進展させる機序としては、高血圧により動脈硬化が生じてついには脳梗塞、脳出血、無症候性脳虚血などの脳血管病変の発症につながり、脳血管性病変の存在により認知機能障害の発症閾値が低くなり、更には虚血や血管内皮の障害や血管透過性の亢進からアミロイドβ蛋白の産生が促進され、クリアランスの障害とともにアルツハイマー病変が加速されるためと考えられています。

高血圧患者では高頻度にアルツハイマー様の病理変化がみられる
(Deschaintre Y, et al. Neurology 2009より引用)
高血圧患者では高頻度にアルツハイマー様の病理変化がみられる

老年期および中年期の血圧レベル別にみた脳血管性認知症の発症リスク
(Ninomita T, et al. Hypertension 2011より引用)
老年期および中年期の血圧レベル別にみた脳血管性認知症の発症リスク

中年期高血圧と認知症リスク
(Freitag MH, et al. Stroke 2006より引用)
中年期高血圧と認知症リスク

 高血圧の持続が認知症の発症・進展に深く関与するため、降圧療法は認知症発症の予防としても有効な手段であり、多くの研究をまとめて解析した結果では、血圧を低下させることにより認知症のリスクが20%減少することが示されています。一方、降圧薬の中でも認知機能に好ましい影響を及ぼす降圧薬があることが知られています。Ca拮抗薬のうちニトレンジピンやニルバジピンという種類の降圧薬は認知症の発症や進展を予防することが知られています。ニトレンジピンでは、アルツハイマー病を主体とする認知症の発症を55%抑制することが報告されており、ニルバジピンはアムロジピンと比べて軽度認知機能低下患者の認知機能障害や脳血流低下の進行を抑制し、更にはアルツハイマー病への進展をも抑制したことが報告されています。レニン・アンジオテンシン系が認知機能に重要な役割を果たしていることから、レニン・アンジオテンシン系の抑制薬も認知症の進展抑制に効果があることが報告されています。アンジオテンシン変換酵素阻害薬のうち脳血液関門を通過しやすい種類の薬剤ではアルツハイマー病の発症リスクを低下させアルツハイマー病の進行を抑制することが明らかにされています。アンジオテンシンII受容体拮抗薬は認知症の発症・進展抑制に関しては最も報告が多く、また他の種類の降圧薬よりも認知症に対する効果が優れているという報告もみられます。更には病理学的な検討においても、アンジオテンシンII受容体拮抗薬を服用している人では、脳内の神経原繊維変化や老人班の出現が軽度であったという報告もあります。降圧薬による降圧以外には生活習慣も重要であり、例えば規則的な運動を週に2回程度6か月上にわたって続けることにより、軽度の認知症では正常に復することもあるとの良質な報告も相当数存在します。

降圧薬治療による認知発症への影響
(Li NC, et al: BMJ 2010より引用)
中年期高血圧と認知症リスク

認知症発症に対する規則的な運動の効果
(Abbott RD, et al: JAMA 2004より引用)
認知症発症に対する規則的な運動の効果【調査対象】高齢者2,257人(71~93歳)

アルツハイマー病発症に対する規則的な運動の効果
(Wilson RS, et al: Neurology 2007より引用)
アルツハイマー病発症に対する規則的な運動の効果【調査対象】高齢者775人(平均年齢80歳)

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