慢性腎臓病(CKD)
1) CKDとは
腎臓は腰のあたりに左右1個ずつあり、1個が150gほどの小さな臓器ですが、①血液を濾過して老廃物を尿として体外に排泄、②体液の量や浸透圧や血圧などの調整をおこなう、③ナトリウム・カリウム・カルシウム・リンなどのミネラルや酸・アルカリのバランスを保つ、④血液を作るホルモンを分泌する、⑤骨を作るのに必要なビタミンDを活性化する、などの様々な働きをしています。
慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease: CKD)とは、腎臓の機能を示す糸球体濾過量(GFR)が60ml/分/1.73m2未満まで低下する状態か、もしくは腎障害(特に蛋白尿の存在が重要)のいずれか、もしくは両方が3か月以上続いている状態です。なお、GFRは糸球体が1分間に血液を濾過して尿を作り出している量を表したものですが、測定は簡便ではないため、実際の診療では年齢・性別・血清クレアチニン値から計算で求めた推定糸球体濾過量(eGFR)を用います。また、腎障害とは、血尿や微量アルブミン尿を含む蛋白尿などの検尿異常、片腎や多発嚢胞腎などの画像異常、血液尿検査における腎障害マーカーの異常、腎病理組織検査による異常所見などの、いずれかによって示されるものです。
CKDは末期腎不全のリスクを増加させることに加えて、動脈硬化を促進し、脳心血管疾患の発症率と死亡率も上昇させます。末期腎不全に至ると透析や腎移植が必要となるため、CKDでは心臓疾患や脳血管疾患の予防を行うとともに、腎不全に至らないように適切な管理や治療を行う必要があります。
2) CKDの原因
以前は、蛋白尿や血尿を伴う慢性糸球体腎炎が主な原因疾患といわれていましたが、近年は、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病が原因疾患となっている比率が高くなっており、特に現在では糖尿病性腎症が最も多い原因疾患となっています。これらの原因疾患以外にも遺伝や薬剤、感染症などが原因の場合もあります。
同じCKDであっても、糖尿病や高血圧が原因でCKDとなった症例では動脈硬化の進展が著しく、心筋梗塞・脳卒中などの脳心血管イベントの発症リスクが増加しています。一方、糸球体腎炎が原因でCKDとなった症例では動脈硬化は少なく、脳心血管疾患イベントのリスクも低くなります。
3) CKDの症状
CKDは自覚症状に乏しく、知らないうちに徐々に進行しますが、病期が進むと徐々に浮腫や高血圧を呈するようになり、病期が更に進行すると肺うっ血を来たして呼吸苦が出現します。また、老廃物が排泄しにくくなって体の中に貯まると、吐き気や食欲不振、頭痛、不眠などをきたします。その他にも、赤血球を作るホルモンの分泌が低下して貧血が進行すると、めまいやふらつきが生じたり、手足の痺れといった神経症状をきたすこともあります。
病期が末期腎不全まで進行すると腎臓の機能は失われ、機能を代行するために透析療法や腎移植が必要になります。また、GFRの低下と尿アルブミン(もしくは尿蛋白)排泄量の増加は共に脳心血管疾患の独立した危険因子であり、CKDが進行すると高血圧が悪化したり、心血管疾患や脳卒中などの病気の発症リスクや死亡率も高くなります。
欧米からの報告では、透析導入される末期腎不全患者数よりも脳心血管疾患により死亡する患者数の方が多いことが明らかにされています。
4) CKDの重症度診断
CKDの重症度は原因(cause)、腎機能(GFR)、蛋白尿(アルブミン尿)の三者を組み合わせたCGA分類で評価され、GFRの数値が低く、尿中のタンパク質の量が多いほど重症度は上昇します。
CGA分類による評価では、重症度は色で表され、緑が脳心血管疾患による死亡や末期腎不全などのリスクが最も低い状態で、黄、オレンジ、赤と色が変わるのにつれてリスクが高くなります。
5) CKDの治療
CKDの治療目標は、腎代替療法が必要となる末期腎不全への進展を阻止する事と、CKDに合併する脳心血管疾患・総死亡・入院などを予防する事です。CKDと心血管疾患の危険因子の多くは共通しており、相互の発症や進行に影響を及ぼします。中でも、特に高血圧は増悪の原因にも結果にもなり、両者は密接な関係にあります。
CKDの治療にあたっては、出来るだけ多くの介入可能な危険因子の治療を包括的に行うことが必要であり、まずは食生活、肥満、喫煙といった生活習慣の改善や薬物療法を行うことにより、生活習慣病をしっかりとコントロールして、腎臓の機能低下の進展を予防することが必要です。特に食事療法に関しては、十分なエネルギー摂取量を確保しつつ、病状に合わせて蛋白量・塩分量・リンの摂取量などを適切に制限することが必要です。CKDが進行するにつれて起こってくる腎性貧血も放置すると腎機能障害が進行し、また心不全の増悪因子にもなるため、エリスロポエチン製剤の投与を検討する必要があります。
生活習慣修正や薬物投与を行ったにも関わらず末期腎不全へと進展した場合には、透析療法や腎移植が必要になります。透析は、機能が低下した腎臓の代わりに体の中の老廃物や余分な水分を除去する治療法で、血液透析と腹膜透析があります。一方、腎移植には親、子、兄弟(姉妹)などの血縁者や配偶者から腎臓の提供を受ける生体腎移植と、亡くなった方から提供を受ける献腎移植があります。腎移植を行うと血液透析の必要性がなくなるため、日常生活の制約は少なくなりますが、生着率が良い生体腎移植でも、3年・5年・10年の生着率は、それぞれ95%、90%、75%と徐々に低下し、再度血液透析に逆戻りすることもあります。