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副腎疾患と高血圧

副腎疾患と副腎性高血圧

1. 副腎とは

 人間のお腹の中には胃や腸などがある腹腔という空間がありますが、その背中側に一枚の膜を隔てて「後腹膜腔」という空間があります。この「後腹膜腔」に副腎は存在し、腎臓の上に左右両方あります。重量は約7g、長さ約5cm、幅約3cm、厚さ約0.4mm~0.6mmの餃子のような形の小さな臓器です。小さな臓器ですが、体内の環境を一定に保ち生命活動を維持するために非常に重要なホルモンを分泌しています。そのため、片方あれば問題ありませんが、副腎が両方ともなくなると薬物によるホルモン補充をしないと生きていけません。

腎臓と副腎の位置と形

 副腎は下図のように構造的により表面に近い皮質と、副腎の中心に位置する髄質と呼ばれる2つの部位に分かれており、髄質からはアドレナリン、ノルアドレナリン、皮質からはコルチゾール、アルドステロンというホルモンと性ホルモンが分泌されています。性ホルモン以外のホルモンには、血圧を維持するという共通した作用があります。しかしながら、ホルモンの分泌が過剰になると血圧が必要以上に上昇したり、糖尿病を発症するなど体に悪影響を及ぼします。

副腎

 コルチゾールは、ストレスホルモンとも呼ばれ、大きなストレスがかかった時に体や心を守るために作られ、糖・蛋白質・脂質の代謝を行う作用や、血圧を維持する作用があります。アルドステロンは、塩分やカリウムを調節し、血圧を維持する作用があります。アドレナリンやノルアドレナリンはカテコールアミンと呼ばれ、心臓の収縮力を増加させたり、全身の血管を収縮させたりして血圧を上昇させたり、血糖値を上昇させたりする作用があります。

副腎皮質・副腎髄質

2. 副腎の腫瘍について

 最近、CTやMRIを撮影する機会が増えたので、副腎腫瘍の発見頻度が増えています。副腎腫瘍(通常は腺腫)は非常によく見られ、70歳までに約10%の人で発生しますが、その大半は良性腫瘍です。しかも、副腎の腫瘍の半数以上は非機能性腫瘍と呼ばれるホルモン過剰分泌を伴わない腫瘍です。しかしながら、中にはホルモンの過剰分泌を伴う腫瘍もあるため、副腎腫瘍が認められた場合にはホルモンの過剰分泌がないかどうかを調べる必要があります。ホルモンの過剰分泌があるかどうかは、畜尿検査(尿を24時間貯めてホルモンの量を調べる検査)や血液検査、負荷検査(薬を投与してホルモンの分泌がどう変化するかを調べる検査)などで診断を行います。

 偶然に発見される副腎腫瘍の大きさは平均3cm程度といわれていますが、5cm以上の巨大な腫瘍が見つかることもあります。大きさが大きかったり、経過観察中に大きくなっていく場合には悪性の腫瘍の可能性が高くなります。通常、ホルモンの過剰分泌が無くても、腫瘍の大きさが5cm以上ある場合や、大きさが3cm~5cmでも形が歪である場合などは悪性の可能性を否定できないため手術が選択されるケースが大半です。また、肺癌などの他の部位の癌が転移して副腎腫瘍となっている場合もあります。

左副腎腫瘍のCT画像

3. 高血圧の原因となる副腎の病気

 血圧を上昇させるホルモンが副腎から過剰分泌される病気が高血圧の原因となります。アルドステロンを過剰分泌する病気は原発性アルドステロン症、コルチゾールを過剰分泌する病気は副腎性(サブクリニカル)クッシング症候群、アドレナリン・ノルアドレナリンを過剰分泌する病気は褐色細胞腫と呼ばれます。

(1) 原発性アルドステロン症

 副腎からアルドステロンが自律的に過剰に分泌される病気で、アルドステロンの自律性分泌と血漿レニン活性低値が特徴です。以前は高血圧患者の1%以下しかこの病気の人はいないとされていましたが、近年は診断法の進歩により発見頻度が増え、高血圧患者の5%~10%程度は原発性アルドステロン症が原因になっていると考えられています。自覚症状に乏しく正しい診断がされていないことも多いのですが、アルドステロン過剰による腎臓での水・Na再吸収を介した血圧上昇作用があるだけでなく、アルドステロン自体の直接的な臓器障害作用により、本態性高血圧症と比べて脳心血管合併症や腎機能障害が有意に起こりやすいため的確なスクリーニングと診断が必要です。詳細は「原発性アルドステロン症」の項をご覧ください。

原発性アルドステロン症の病態原発性アルドステロン症の病態

(2) 副腎性(サブクリニカル)クッシング症候群

 コルチゾールが自律的かつ過剰に作られて分泌されている病気です。クッシング症候群では、外見上、中心性肥満(胴体は太く手足は細い肥満)や満月様の顔貌、両肩のこぶのような脂肪(野牛のこぶといいます)、にきび、などといった特徴的な所見が見られますが、すべてが見られるわけではありません。また高血圧。糖尿病、脂質異常症、骨粗鬆症などを合併しますが、これらもすべてが合併するわけではありません。近年比較的頻度が多い疾患として、サブクリニカルクッシング症候群という疾患も注目されています。サブクリニカルクッシング症候群もコルチゾールが自律的かつ過剰に分泌されますが、クッシング症候群よりは軽度で外見は普通です。しかしながら、この疾患もコルチゾールの作用により、高血圧や糖尿病、脂質異常症、骨折などが起こりやすくなります。これらの疾患は動脈硬化が進展しやすいため、積極的に検査をして治療する必要があります。

クッシング症候群の病態クッシング症候群の病態

(3) 褐色細胞腫

 クロム親和性細胞由来のカテコールアミン産生神経内分泌腫瘍であり、副腎髄質由来の褐色細胞腫と傍神経節由来のパラガングリオーマがあります。パラガングリオーマは頸部・胸部・膀胱付近などの傍神経節に好発し、頻度としては褐色細胞腫の10%程度です。褐色細胞腫は高血圧症のうち0.1%~0.6%程度の頻度で見られる稀な疾患で、アドレナリンやノルアドレナリンというホルモン(カテコールアミン)が過剰に作られて分泌され、多くの症例では平均5cm~6cmの大きな腫瘍を伴います。腫瘍は通常左右どちらかの副腎にできますが、10%程度の頻度で左右両側の副腎に腫瘍ができます。褐色細胞腫ではカテコールアミン過剰による高血圧をきたす以外に、動悸・不整脈・異常な発汗・不安感・体重減少・嘔気・耳鳴り・頭痛・眼底出血・起立性低血圧などの症状がおこり、血糖値が上昇することもあります。褐色細胞腫における高血圧は、持続的に上昇血圧を呈する場合もありますが、約45%の症例では発作的に血圧が著明に上昇し、場合によっては非常に危険な状態に陥ることもあります。発作はホルモンが血中に分泌されるためにおこるため、運動やストレス、喫煙、腹部の手術、脱水などの体調不良、薬剤などにより誘発されます。腫瘍は転移した時に悪性と判断され、褐色細胞腫で認められる腫瘍は10%程度が悪性(副腎以外にできる場合は30%)と考えられていますが、近年ではすべての褐色細胞腫は悪性化能を有していると考えられるようになっており、転移や浸潤のリスクを減らすためにも早期の診断と治療が必要とされています。

褐色細胞腫の病態褐色細胞腫の病態

(4) 副腎腫瘍と副腎性高血圧の診断

 まず、腫瘍に関してはCTやMRIで大きさや形、内部の性状(脂肪分の程度、出血の有無など)をみます。副腎腫瘍はMRIや造影CTで検査することにより、ある程度どのような腫瘍なのかが判断できます。なお、褐色細胞腫は造影剤により発作が誘発されることがあるため、疑いが強ければ造影CTはおこないません。

 ホルモンが過剰に分泌されているかどうかについては、尿検査や血液検査で診断をします。ホルモンは正常では時間帯により分泌される量が変化したり(日内変動といいます)、刺激を受けると分泌量が変化したりするため、尿検査も1回の採尿ではなく24時間の蓄尿検査で診断を行います。副腎ホルモンは種々の負荷によりその分泌量がかわる性質を利用して、薬や体位での負荷を与えたときの分泌量を調べる検査(負荷試験といいます)も行い診断を進めていきます。副腎ホルモンは立位やストレス、運動などで分泌量が増えるため、通常の採血は15分~30分の安静臥床後に行います。

 これらの検査によりホルモンが過剰に分泌されていると判断した場合には、ホルモン産生の部位の同定を行います。褐色細胞腫では副腎以外からホルモンが過剰に産生されていることも少なくないので、放射性同位元素を注射して写真を撮影する検査(アイソトープ検査といいます)を施行してホルモン産生部位を調べます。副腎性(サブクリニカル)クッシング症候群や原発性アルドステロン症は副腎から主にホルモンが過剰に分泌されますが、副腎は左右両方にあるため、左右どちらから過剰に分泌されているのかを調べる必要があります。クッシング症候群の場合は、大半の症例でCTで判断可能な腫瘍が認められ、過剰分泌も腫瘍側からの場合が多いのでアイソトープ検査で判断できることも多いのですが、原発性アルドステロン症やサブクリニカルクッシング症候群では、CTには写らない程度の小さな腫瘍(マイクロアデノーマといいます)も多く、左右どちらの副腎から分泌が過剰なのかが分からないことが多くあります。そのため、原発性アルドステロン症やサブクリニカルクッシング症候群では、副腎の静脈にカテーテルを挿入して、直接副腎の静脈から採血を行う検査(副腎静脈サンプリングといいます)が施行されます。特に手術を考える場合には、副腎静脈サンプリング検査は必須の検査になります。

副腎静脈サンプリング副腎静脈サンプリング

(5) 副腎疾患の治療について

 基本的にはホルモンが過剰に分泌されていると判断され、手術が可能であれば手術を考えます。特にホルモン分泌量が多く、分泌過剰が左右どちらかの副腎のみである場合は積極的に手術を考えます。褐色細胞腫や原発性アルドステロン症に対する内服薬はありますが、特に褐色細胞腫では手術が可能なら薬でコントロールするよりは手術をするほうが予後が良いことと、手術後に病理診断で悪性かどうかの判定ができることから手術が第一選択となります。ただし、褐色細胞腫は病理診断では良性か悪性かの判断が難しく、他の臓器への転移が出現して初めて悪性であることが判明することもあります。原発性アルドステロン症では、過剰分泌が片方の副腎からのみであれば手術が選択されますが、ホルモンの分泌量がそれほど多くない場合や左右両方の副腎から過剰分泌がある場合は薬剤の内服加療が選択されることも多くあります。クッシング症候群では、手術療法以外の治療はあまり予後を改善するものはなく原則として手術が選択されます。サブクリニカルクッシング症候群でも、高血圧や脂質異常症、糖尿病などを合併する場合は手術療法の方が予後が良いと考えられています。多くの場合手術は腹腔鏡で行いますので、傷も小さく、回復期間も短期間ですみます。

腹腔鏡手術

甲斐 達也

かい内科クリニック院長  甲斐 達也(かい たつや)

  • 日本内科学会認定総合内科専門医
  • 日本循環器学会認定循環器専門医
  • 日本高血圧学会認定高血圧専門医
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